コラム

遺品整理で着物を処分すると相続放棄できなくなる?法定単純承認のリスク

執筆:きもの査定ガイド編集部
この記事の結論

相続放棄を検討している間に、遺品整理で着物を売却・処分すると法定単純承認とみなされ放棄できなくなることがあります。処分に当たる行為の目安と着物特有の注意点を整理します。

故人の遺品整理で見つかった着物を、相続放棄をするかどうか決める前に売却・処分してしまうと、民法上「法定単純承認」とみなされ、相続放棄や限定承認ができなくなることがあります。結論として、経済的価値がほとんどない着物を形見分け程度で分け合う分には問題にならないとされていますが、証紙・落款のある作家物やまとまった数の着物を売却・処分する行為はリスクが高く、相続放棄を検討している場合は判断を急がないことが重要です。

なぜ着物の処分が相続放棄に影響するのか?「法定単純承認」とは

相続には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢があり、故人に借金などマイナスの財産が多い場合は相続放棄を検討する遺族も少なくありません。相続放棄には民法上、次の2つの制約があります。

  • 期限がある — 「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヶ月以内(熟慮期間)に家庭裁判所へ申述する必要がある(民法915条)。
  • 一定の行為をすると自動的に選択肢が失われる — 相続人が相続財産の全部または一部を「処分」すると、意思表示をしなくても単純承認をしたものとみなされる(民法921条1号、法定単純承認)。

この2号目の「法定単純承認」が、遺品整理と特に関わりが深いルールです。相続放棄をするかどうか迷っている段階で、遺品の着物を売却したり人に譲ったりすると、それだけで「単純承認した」と扱われ、あとから「やっぱり放棄したい」と思っても認められなくなるおそれがあります(法定単純承認とは?相続放棄ができなくなる行為|税理士法人トゥモローズ)。

「処分」に当たる行為・当たらない行為の目安

すべての遺品整理が法定単純承認に当たるわけではありません。裁判所は「一般的に許容される範囲で行われた行為」までは処分と扱わない立場を取っています。

行為の例法定単純承認に当たるか
経済的価値の乏しい着物・小物を形見分けとして分け合う当たりにくい
固定資産税の支払いなど、財産を維持するための保存行為当たらない
証紙・落款のある高価な着物、まとまった数の着物一式を売却する当たる可能性が高い
着物を第三者に贈与する当たる可能性が高い(経済的価値のあるもの)
着物を勝手に着用・消費して価値を損なう当たる可能性が高い

(参考: 相続放棄できなくなる「相続財産の処分」とは|松谷司法書士事務所故人の衣類や日用品を処分した後でも相続放棄できる?|デイライト法律事務所

ポイントは「財産としての価値があるかどうか」です。同じ「着物を手放す」行為でも、価値の有無によって扱いが変わってきます。

着物はどう判断される?価値の有無がカギになる裁判例

裁判例では、故人の衣類の扱いについて、経済的価値の乏しさを理由に法定単純承認を否定した例があります。

  • 山口地徳島支判(昭和40年) — 背広上下・冬オーバー・スプリングコートなどの形見分けについて、経済的価値が乏しいとして相続放棄を認めた。
  • 大阪高決(昭和54年) — 「やむなく殆ど経済的価値のない財布などの雑品」を引き取った行為は法定単純承認に当たらないと判示。

故人の衣類や日用品を処分した後でも相続放棄できる?|デイライト法律事務所

これらは背広やコートなど普段着の衣類が対象の事案です。着物の場合はここが悩ましく、次のように価値の幅が大きいことに注意が必要です。

  • 普段着の小紋・浴衣や、シミ・虫食いなど状態が悪い着物は、経済的価値が乏しいと判断されやすい。
  • 証紙・落款のある作家物、正絹の礼装(振袖・留袖・訪問着)、アンティークの逸品などは資産としての価値が高く判断されるリスクがある。
  • まとめて大量に売却する行為は、1点あたりの価値が低くても合計額次第で「処分」と評価される可能性がある。

つまり「着物だから大丈夫」「着物だから危ない」と一律に判断できず、証紙・落款の有無や状態、点数によってケースバイケースで見る必要があります。

相続放棄を検討している場合にとるべき対応

故人に借金の可能性があるなど、相続放棄を選択肢として残しておきたい場合は、遺品整理の進め方に次のような注意が必要です。

  • 相続放棄の要否を先に検討する — 遺品整理を始める前に、故人の負債状況をできる範囲で確認し、相続放棄の可能性があるかどうかを見極める。
  • 判断に迷う着物は処分・売却せず保管する — 証紙・落款があるものやまとまった数の着物は、相続放棄の判断がつくまで手をつけない。
  • 形見分けは経済的価値の低いものにとどめる — 思い出の品として分け合う場合も、高価な着物一式をまとめて渡すような形は避ける。
  • 3ヶ月の期限を意識する — 熟慮期間が短いと感じる場合は、家庭裁判所に期間伸長の申立てをする方法もある。
  • 迷ったら弁護士・司法書士に相談してから動く — 「これくらいなら大丈夫」という自己判断が後で覆るリスクがあるため、着物の資産価値と法定単純承認の該当性は専門家に確認するのが安全です。

なお、相続放棄をしないと決めた場合の着物の売却・査定の進め方は、本サイトの「着物の査定費用と高く売るコツ」もあわせてご覧ください。

査定だけなら大丈夫?よくある疑問

遺品整理の現場でよく出る疑問についても整理しておきます。

  • 査定を受けるだけなら処分に当たる? — 査定(見積もりの取得)自体は財産を処分する行為ではないため、直ちに法定単純承認に当たるとは考えにくいとされています。ただし査定後にそのまま売却してしまえば処分行為になるため、「査定だけ」で止める判断力が必要です。
  • 写真を撮って保管しておくのは問題ない? — 写真撮影や記録の作成は財産の処分に当たらず、後で価値を検討する材料としても有効です。
  • 相続放棄をしないと決めている場合も注意は必要? — 相続放棄をしない前提であれば法定単純承認を気にする必要は基本的にありませんが、他の相続人がいる場合は遺産分割協議が終わるまで独断で処分しないのが望ましいとされています。

注意

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の相続放棄・法定単純承認の該当性を保証するものではありません。行為が「処分」に当たるかどうかは個々の事実関係によって判断が分かれます。
  • 紹介した裁判例は特定の事案に対する判断であり、同様の結論が他のケースでも得られるとは限りません。
  • 着物の評価額・資産価値は個々の状態や証紙・落款の有無、市況によって異なり、本記事の内容は評価額や法的判断を保証するものではありません。
  • 相続放棄を検討している場合は、遺品整理に着手する前に弁護士・司法書士など専門家にご相談ください。
  • アフィリエイト・広告リンクは含まれていません。

きもの査定ガイド編集部

編集部

着物の買取・査定・お手入れの情報を、初心者にもわかりやすく届ける編集チーム。

着物の価値、気になっていませんか?

相場や状態の不安は、無料の査定相談で解消できます。査定料・手数料は無料です。

無料査定について見る

関連記事